第49怪『お盆のちょっと怖い話　3回目』

10年ほど前になるだろうか。
家の階段を上がっていると、

「トシ！」

という声が突然に聞こえた。

数段先を上がっていた妻が
驚いた顔をして振り返る。

「えっ！　冨士夫？！」

そう、冨士夫（山口冨士夫）なのだ。
いや、正確には冨士夫の声なのである。

彼は何処かからコチラを見ているのだろうか？
アチラの状況はわからないが
まさか我が家を彷徨っているのだろうかと思った。

この期に及んで油断は禁物なのです。

ところで、
僕はフワフワの高い枕が好きで、
寝落ちするまでそこに頭をあずけ、
スマホで音楽やYouTubeを
楽しんだりする毎夜なのだが、
その枕を″ポン！″と叩く輩がいる。

驚いて頭を起こし振り返ると誰もいない。

「……………………！？」

奥さんは2階で寝ているので、
ソレができるとしたら
彼女は妖怪ということになる。
らしきところはあるがたぶん違うだろう。
すると、いったい、何（誰）なのだろうか？

コレも冨士夫のしわざか？
なんのメッセージだ？

まぁ、たぶん、
からかっているだけなのだろうが、
その不可思議な枕叩きは
冨士夫亡きあと、しばらく続いた。
数ヶ月も気まぐれに叩かれたあげくに、
アチラもつまらなくなったのだろう。
（コチラも気にしなくなったのだが…）
今はもうすっかり収まっている。

…………………………………………

母親が現世に存在している頃は、
黒い影が″スーッ″と
部屋の中を横切ったりした。
家族みんなでソレを目撃するのだ。

「今のはお父さんだよ」

その瞬間に母親が
黒い影を春三（はるぞう）だと主張する。
春三とは、とっくに逝った親父のことだが、
僕もなんとなくそんな気がしていたので、

「そうだね」

と、気軽に返していた。

その影も母親が逝った頃から現れなくなった。
きっと今頃は2人で仲良くやっているのだろう。
親父はお袋のことが恋しかったのだ。
あの世でも一緒なら微笑ましいばかりである。

…………………………………………

「最近はすっかり何事もなくなったね」

夕食をとりながら妻が微笑んだ。

「みんな何処かへ行ってしまったのかもね」

少し寂し気ながら僕は答えた。

妻と僕とはそういう波長は合うのだと思う。

前に暮らしていた家での出来事だが、
たまに、自分が台所で食器を洗ったり
ご飯の支度をしていると、
左下の視界ギリギリのところに
小さな女の子が居て、
コチラを見上げているのを感じた。

それは、赤い服を着た寂し気な女の子なのだ。
顔を動かして確認しようとすると
消えてしまう気がしたので、
そのままの状態で洗い物をしていると、
いつの間にか居なくなる。

怖くはない。
″寂しいんだな″と思った。
″可哀想だな″と思いながら接しているうちに、
ふと、妻にその事を打ち分けた。

「最近さぁ、家の中で…」

と、僕が言ったところで、

「赤い服を着た女の子でしょ！？見えるの？」

と、妻が驚いた顔をした。

いや、驚かれて余計に驚いたのはコッチだが、
話を聞くと僕の場合と全く同じ状況だった。
台所で何かしていると
ひざのあたりに現れるのだと言う。
やはり寂し気なのだそうだ。

悪い子ではなさそうだが、
帰してあげようと言うことになり、
玄関に盛り塩をした。

その家は、
ベランダの向こう側に墓地があり、
玄関からベランダまでが一直線で、
墓地へと続く間に台所があったのである。

つまり、台所は霊の通り道だと、
霊感の強い知人に言われたのだ。
その通り道に盛り塩をしたとたん、
女の子は現れなくなった。

…………………………………………

そんなふうになんとなく僕らの周りには、
ごく普通に不可思議な現象があった。

僕個人としては、
若い頃からそんなこんなを感じることが多く、
友達の部屋に霊が付いて居たり、
（もちろん友達には言わなかった）
観光ホテルの天井に張り付いているのを感じて、
ビビったりしたものだが、
僕自身がだんだんと
あの世に逝く年齢が近づくにつけ、
最近では平チャラになってきた気がしている。

さて、今年もまたお盆がやってきた。
東京は7月におこなわれるが、
全国的には8月13日から16日におこなわれる
先祖供養のための夏の恒例行事なのだ。

ウチでは7月19日が母親の命日で、
8月14日が冨士夫の命日なので、
そのあいだをお盆ということにしている。
なんちゃって、いい加減である。

どなたさまも、とにかく暑いので、
気をつけてお過ごしください。
また、コロナも流行っているのだとか。
くれぐれもご自愛ください。

暑中お見舞い申し上げます。
たのしい夏を過ごしましょう。

（2024/07/24）

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