第51怪 高木親(たかぎちかし)の幻影
- 2024.08.29
- 『藻の月』BLOG
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高木親(たかぎ ちかし)こと、
チカちゃんに初めて会ったのは、
東芝EMIと契約する少し前だったと思う。
たぶん、『ボ・ガンボズ』のDr.Kyonの
紹介ではなかっただろうか。
彼らと同じく京都出身で、
『ギャンブル・ホーンズ』という
ホーン・トリオで活動していたところを、
チカちゃんだけが『TEARDROPS』に
ゲスト参加してくれたのである。
初対面のころの
冨士夫とチカちゃんとが楽しげに
新宿ゴールデン街で飲む写真が残っている。

チカちゃんも呑兵衛だったので、
我が“酩酊バンド”の仲間になるのは早かった。
いつもはサングラスをかけ、
クールに決めているチカシなのだが、
ひとたびグラサンをとると
小さくてつぶらな瞳が照れるように現れた。
僕はそんなチカちゃんのことを
密かに“金魚”のようだと思っていた。
小さくてつぶらな瞳もさることながら、
オールバックになでつけたヘアースタイルで、
“ブファー!”っと、
サックスを吹き上げる様が
まるで魚のように見えたからである。
(コレはあくまで主観なので悪しからず)
チカシはバンドのメンバーではなかったが、
メンバー同様に活動に参加してくれた。
TEARDROPS – Talk To Me Baby
ただ、少し離れたところに居て、
客観的な立場からものを申す方が
チカシの性に合っていたのだろう。
ある一定の距離感を持って接していた気がする。
『TEARDROPS』はある意味、実に面倒なバンドだった。
最近の天気予報ではないが、
突然に発生した台風が、
遥かLIVEの海上に停滞して
いつ北上して来るのか予想がつかない。
たいていは冨士夫タイフーンなのだが、
佐瀬タイフーンも決してあなどれなかった。
アルバム『らくがき』のリハーサル時に、
予想に反して発生した佐瀬一号は、
風速50メートルでスティックを放り出し、
ツアー直前のバンドを抜けて行ったのだ。
数日後から始まるツアーには
急遽チコ・ヒゲ救急隊員が参加してくれ、
『TEARDROPS』のゲストは2人になった。
チカシとチコ・ヒゲ救急隊員である。
その頃のツアーは
機材車と乗用車2台で移動していたので、
チカシとチコ・ヒゲ救急隊員は
僕の赤いCR-Xに詰め込まれての移動となった。
そこでわかったのが、
チカシが強度の乗り物酔いであるということである。
クルマ酔いはお子ちゃまによくある症状だが、
電車でも酔うというのは初めて聞いた。
だからって、
まさか歩いて行くわけにも行くまい。
僕らは松尾芭蕉ではないのだ。
チカシはなんとか酔いを誤魔化しながら、
車に寝転ぶように乗車した格好で移動した。
そのうちに移動手段が新幹線になり、
まだビュッフェがある頃だったので、
呑みながら移動することも可能になった。
乗り物に酔う前に
酒に酔っちまえばいいのだ(?!)。
TEARDROPS – 瞬間移動できたら
『TEARDROPS』東芝EMIの2枚目のRec.は
サンフランシスコであった。
先に渡航したメンバーの
ベイシック録音が出来上がる頃合いに
チカちゃんを連れて行こうとしたのだが、
その時もチカシは固まっていた。
「俺、飛行機もだめやねん」と言う。
「大丈夫、俺がずっと話し相手になってやるから」
となだめながら乗ったのだが、
成田を離陸するところまでしか僕の記憶はない。
あろうことかシスコまでの10時間あまり、
僕自身はぐっすりと熟睡してしまったのだった。
「もうトシの言うことは、なんも信じないことにするわ」
シスコの空港で、
一睡もできずに金魚のような目をしたチカちゃんが、
激オコだったのを覚えている。
誠に「sorry!」である。
シスコに滞在中、
ずっと謝っていた気がする。
TEARDROPS – 谷間のうた
さて、
『TEARDROPS』3枚目のRec.ともなると、
東芝EMIというメジャーの会社に気を遣って
大人しくしていた冨士夫も、
段々と本来の姿を見せ始め、
わがままな振る舞いになってくる。
山中湖にあるスタジオでRec.していたのだが、
一向に録音が進まなかった。
ベイシック録音ができなければ
チカちゃんが居る意味がない。
サックスの音を被せることができないからである。
業を煮やしたチカシは、
その場で思いついたお得意のラテンの曲に、
当時19歳のローディであったオオジのギターを入れて、
『働けもっとたんと』というデモを録音している。
(ローディだったオオジ『渡邊大二』は、現在は照明会社を率いている)
この頃から『TEARDROPS』は、
大きな台風の渦の中で揺れ動いていくのだが、
チカちゃんは一歩離れたところから、
冷静な目で眺めていたような気がする。
『働けもっとたんと』曲/高木親
…………………………………………
『TEARDROPS』が
活動休止という名目の解散をし、
何年も経ったある夜、
クロコダイルの客席でチカシと再会した。
その夜は冨士夫のLIVEだったのだ。
冨士夫は寂しがりやなので、
離れた後もなんだかんだと呼んでくる。
きっと、チカちゃんも同じように呼ばれたのだろう。
僕らは懐かしいサウンドを並んで堪能した。
その夜の僕は車だったので
LIVEの後にチカちゃんを
家まで送って行くことになった。
(そういえば、チカシの乗り物酔いのことは覚えていない)
『TEARDROPS』の頃のチカちゃんの家は
三鷹の中央通りを抜けたところにあったのだが、
この時は埼玉に引っ越していた。
あのとき、僕らはなんの話をしたのだろう。
確か僕は40歳を少し過ぎた頃で、
チカちゃんは僕より少だけ弟だったように思う。
思い起こせばチカちゃんは
常に僕に対して注意喚起を促していた。
「言うとくけどな、年下の俺が言うのもなんやけど、トシのいい加減なところはここなんや」
って、よく言われていたような気がする。
それのどれもが思い当たる節があるので、
“うんうん”っていつもありがたく聞いていたのだが、
それで自分が改善されたのかは定かではない。
僕は良くも悪くも常に独りよがりなので、
こうやって何かを言ってくれる人はありがたかった。
『TEARDROPS』の頃のそれは、
はっきりとチカちゃんであった。
TEARDROPS – うまダマ (うまくダマしたつもりかい)
…………………………………………
一昨年の秋頃、
チカちゃんが京都で
『BOUND』と言うバンドを
やっているという連絡を受けた。
いまだに会えずにいる
京都の染物屋さんからの連絡だったのだが、
その後、京都でのLIVEの告知を
送ってくれるようになった。
人生の常なのだが、
行こう行こうと思っているうちに
無情にも時間は過ぎていく。
去年からはyoutubeも送ってくれるようになり、
それなりに近況を確かめることもできた。
WORKS / バウンド
昨年の夏にどうやら体調が
思わしくないことを知り、
チカちゃんのバンドも
『井戸端JAM』に変わったようだった。
そして、今年の9月のLIVE予定が
急遽7月へと変更になり、
ついに行くタイミングを逃してしまったのだった。
本当に残念で仕方がない。
こうして改めて思い浮かべると、
僕らはいつも何の話をしていたのだろう?
それは、
思い出せないほどのたあいもない世間話で、
その場で消えて行っちまうほどの
軽い笑い話だったのかも知れない。
でも、あの頃の僕らにとっては
そんな会話がとても大切だったような気がする。
再び会って、
それを確かめられなかったのは残念だけれど、
チカちゃんが残したサックスの音色は
ずっと僕の心に残っている。
今は静かにおやすみください。
そっと横になって眠るのがいいと思う……。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
(2024/08/29)
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