第52怪『Kanonのスタジオ』
- 2024.11.04
- 『藻の月』BLOG
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飯能にあるカノンのスタジオは
名栗川の上流に位置している。
以前はレンが住んでいたのだが、
今年からはカノンが引き継いだ。
川の畔に連なる集落を行くと
年季の入った古民家が現れるので、
小さな坂を下りて車を停める。
近所との境目のない庭を行き、
玄関の引き戸を開けると
屈託のない笑顔で彼女が迎えてくれた。
「庭で野菜を作っても鹿が来て全滅させるんだよね」
って口を尖らさすカノンに、
「何匹くらい来るの?」と訊いてみた。
「10匹くらい」
と答えるのを聞いて驚いた。
そんなにたくさんの鹿を見たことがない、
って言うか、
庭に鹿が来ている図が想い浮かばないのだ。
10部屋近くある古民家の
全てのスペースをリフォームすれば、
ちょっとした面白い遊び場ができそうだ。
だが、それには少しばかり軍資金が必要である。
「この家をアトリエにしたいんだ。ちょっとした店構えも作りたい。プライベート・スタジオがあるから、藻の月以外のバンドなんかが、泊まりで活用できるスペースにもなるし…。」
と、夢と現実の狭間で揺れ動く
カノンの瞳を見ていると、
コチラまで観覧車に乗ったような気分になる。
身の丈にあった世界で生きていると、
僕等はどうしても保守的になりがちである。
デジタル化した社会では、
情報に背中を押されたように進み行くしかない。
勝ち負けが重要な価値観の中で、
いかにすれば徳することができるのか、
あるいは、損をしないで済むのか、
という真逆の事柄が、
同じ次元で勝手に流れてくる毎日。
それも、頼んでもいないのに、である。
いや、無意識に頼んでいるのかも知れない。
そんなことまでわからなくなってきて、
終いにはAlに運勢を尋ねたりする自分がいるのだ。
「藻の月の次のアルバムはレンの家で録ろう」
去年の今頃はまだ
飯能の古民家はレンの住まいだった。
必要な機材を寄せ集め、
子供の頃からの夢だったように手作りされた
レンのプライベート・スペースだったのである。
ドラムセットはマーチン(FOOLS)の
形見を基本にセッティングされている。
つまり、カノンは
マーチンのドラムを受け継いでいるのだ。
防音壁も何もないのだが、
民家と民家が離れているので
夜10時くらいまでなら音も出せる。
最初に遊びに行ったときには
庭にある小さな窯で
手作りピザ🍕を焼きながら楽しんだ。
焚き火を囲んで、
鹿の鳴き声を遠くに聞きながら
ミーティングに興じたりしたのだ。
去年の夏、
レンとカノンがスタジオで作った
プライベート・テープが、
今回の藻の月レコーディングの発想に繋がった。
そんなわけで、
“できるときに出来上がった新曲を録る”
なんて、去年の秋から始めたてみたら、
ついうっかりと、
太陽を一周してしまったというわけである。
この秋は最後の追い込みと言ったらいいだろうか、
先日も最終曲のBasic録音をしてきたばかりなのだ。
リビングで恒例になった
録音後のピザを頬張りながら雑談をしていると、
「最近はムササビが飛んで来るんだよね」
と、庭にある木を指差して、
森から飛んで来る新たなる友達を
カノンが紹介してくれた。
そんな話を聞いていると、
デジタル化した社会に生きて行くことが
何だか違うのではないかと思えてくる。
近い将来、僕等は、
首にかけたAIと会話をしながら、
自分に合った情報をもとに暮らしていくという、
今よりも一歩進んだデジタル社会に突入していくのだろう。
自分だけのAIが選んだ好みのスペースで遊び、
好みの音楽を聴き、好みの映像を鑑賞し、
好みの料理に舌鼓するのかも知れない。
そのどれもが自らの脳で考えたものではないのだが、
心地良く脳に繋がるので何の問題もない。
逆に問題なのは失敗をすることである。
誰もがAIと共に
日々をコントロールしているのに、
それが出来ない輩は
変人として社会からスポイルされていく。
近い将来、情報に急かされ、
生活する時間はもっと加速し、
創造力はAIにとって代わられていくのだろう。
まぁ、その中でも、
“ロックに生きていこうぜ!”
なんて死語を吐きながら、
僕等はどこまでも、
マイノリティであり続けるのかも知れないが…。
そんなことを想いながら、
ジョージと安井を車に乗せて
カノンの家を後にした。
紅葉の季節にはまだ早いが、
黒く息づく夜の森を抜けて、
集落に導く小さな橋を渡り、
名栗川に沿った県道を下流に向かって走らせる。
「これでレコーディングは、ヒロの歌入れだけだな」
後部座席でジョージがつぶやいた。
と、その瞬間である!
ヘッドライトの先に
ひとつの物体が浮かび上がった。
鹿だった。
道路に飛び出して来て、
両眼を光らせながらコチラを向いている。
“ぶつかる!”という瞬間に、
鹿が再びUターンしたので、
奇跡的に衝突を回避することができた。
「イヤァ、危なかった!」と、
「ホントに居るんだね!」という言葉が、
車内に飛び交った。
安堵の気持ちと共に、改めて、
“生きていることはこうゆうことなのかも知れない”
と思ったりした。
いくら合理的に生きようとも、
都合よく社会を渡ろうとしても、
自然の営みには逆らえないのではないか。
AIに自身の想像力を預けて便利に暮らす社会は、
きっと人々を大した至福感に導いたりはしない。
このままデジタル社会が進んでいくことは
すでに止めようもないのだろうが、
僕らは微力ながら、
それらに逆らって生きていきたいと思う。
その一つに今回の藻の月の
レコーディングがあるのだと思いたい。
古民家の一部屋に寄せ集めた機材で、
ミュージシャンのレンが、
真剣な表情で録音をし、
MIXまでも手がけている。
最後のレコーディング曲、
『Lames/レイムス』のBasic録りが済み、
「一回、聴いてみようか!」
と言うジョージの掛け声で
全員が隣の視聴部屋に移動した。
たった今録ったばかりの演奏が
スピーカーから流れ出してくる。
僕は窓に映る深い山並みを眺めていた。
小雨に煙る景色と耳に届くリズムが心地良い。
「良いんじゃないか、コレでヒロも歌えるだろ!」
ジョージの声で振り返ると、
バンドメンバー全員の笑顔が映った。
その瞬間、
予期せね至福感が心を包み、
僕は大きく息を吐くのだった。
(2024.11,04)
INFORMATION
Monotsuki New Album『Sir』
初回限定特典付予約➡️goodlovin.net
⚡️Teaser➡️youtu.be/7VcG0owCS-s
1 Loki “ロキ”
music by DJ HOL-ON & George & Ren
chimes of Mars
2 Tiefer “ティーファー”
words by Kanon
music by George
3 L.H.O.O.Q “ルーク”
words and music by George
4 No Sacrifice “ノー サクリファイス”
words and music by George
5 La nuit “ラニュイ”
words by George
music by Ren
6 Null “ヌル”
words and music by Monotsuki & DJ HOL-ON
7 Lames “レイムス”
words and music by George
Monotsuki
George Nozuki/Vocals,Guitars
Ren Hirayama/Guitars
Moon Yasui/Bass
Kanon Kimijima/Drums,Vocals
Guest Musicians
Hiroaki “Harry” Murakoshi /Vocals,Chorus (track 2,7)
DJ HOL-ON /electronics (track 1,6)
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