ティアドロップス(カズに捧ぐ)
- 2025.03.31
- 『藻の月』BLOG
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歳をとって困ることは、
リアルに老いていく時間の中で
心は若いころのまんまだってこと。
ふと想ったりするのは、
今の現実が想像の世界だったりして、
昼寝から覚めたら隣りの部屋から
わいわいという声がする気がする。
眠たい目をこすりながら起き上がり、
アルコールと草の匂いに煙る
隣の部屋を横切り窓を開けようとすると、
「開けるなよ、トシ!」
と、みんなに責められる。
「まぁ、そこに座んなよ、一杯やろうや」
と、誰彼ともなく瓶ビールをコップに注がれ、
あまり呑めない酒に口を合わせ、
ふと、格子の窓に目をやると、
曇りガラスの向こうに
桜の花びらが散る景色が映るのだ。
さて、今日は何月何日なのだろうか?
なんて、ぼんやりと日にちや予定を
思い出そうとするのだけれど、
しばらく森の中を彷徨ったかのように
頭の中は釈然としない。
部屋の中には薄陽が差し、
ニールヤングのHarvest Moonが耳に心地良い。
その合間を縫うようにみんなの笑い声が
草の向こうでゆらゆらと揺れているあの感じ。
常識的な時間の観念や、
たくさんのやりたいことが整理できずに、
妄想のなかでゆっくりと漂っている。
「俺たちはみんな同じ船に乗ってるんだ、岸から離れたら二度と引き返せないぜ!」
突然に鼻から煙を吐きながら冨士夫が言った。
「船長は誰だよ?」
カズがニヤつきながら訊く。
「そりゃ、オレ、……いや、みんなだろ、なっ?!青ちゃん」
でた、困ったときの青ちゃん頼みだ。
「俺は冨士夫でいいと思うよ、歌ってる奴が船長さ」
そう言って、どうでもいいように青ちゃんはかぶりを振った。
そこに、ずっと部屋の奥でひたすらに酒を呑んでいた佐瀬が、満面の笑顔で叫んだ。
「冨士夫の船に乗るのか、じゃ、二度と岸には戻れねぇな!」
それを合図に大笑いをする4人。
季節が巡り行く毎日のなかで、
僕らには幸せな瞬間がいっぱいあった。
かけがえのない想いが心に残っている。
歳をとって困ることは、
ずっと岸から過去を眺めていること。
二度と戻らない船を待つことなのかも知れない。
(中嶋一徳氏のご冥福をお祈りします)
Neil Young – Harvest Moon [Official Music Video]
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