第58怪『霜月』
- 2025.11.11
- 『藻の月』BLOG
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約45億年もの前の話……。
まだ若かった地球に
火星くらいの大きさの天体、
“テイア”と呼ばれる惑星がぶつかった。
その瞬間、地球と“テイア”の一部が
溶けた岩石として宇宙空間に飛び散り、
やがて、その破片が集まって
大きなひとつの“塊り”になる。
その生まれたばかりの“塊り”は、
地球からわずか2万kmほどの距離にあり、
見上げた空には地平線いっぱいに
“塊り”の曲線が広がっていたという。
“塊り”は、約5時間で地球を一周した。
その影響で海は激しく波打ち、
潮は休む事のない満ち引きを繰り返し、
大地は常に削られ続けた。
そして、その“鼓動”こそが、
“塊り”をゆっくりと遠ざける力になってく。
引き潮と満ち潮、
水の揺れが地球の回転を
ほんのわずかに遅らせるたびに
“塊り”はその見返りとして、
空を少しだけ高く昇って行ったのだ。
その速度は、1年に 3〜4cm。
まるで永い手紙の行間のような時間の流れも、
45億年も経てば38万kmにもなる。
やがて地球上に人類が誕生し、
空を見上げたその時から、
“塊り”は“月”と呼ばれるようになった。
いや、名前なんかよりも先に、
ずっと心に映る存在だったのだろう。
人々は月を見て暮らし方を決めた。
農耕、祈り、祭りなどで
“満ち欠け”を目印にしていたという。
そんな目印としての月を時間に当てはめた時、
例えば僕らは、
「今年もあっという間に11月になったね」
と挨拶をする。
旧暦で11月は『霜月(しもつき)』を指す。
これは寒さが深まる頃を指す言葉で、
『霜が降りる月』のことを示す。

…………………………………………
霜が降りるほどではないが、
そんな北風の強い夕暮れどきに
僕は高円寺駅の改札口を抜けた。
それこそしばらく休んでいる
『藻の月』の話をするために
ジョージに会いに来たのである。
改札を出るとスタジャンを着て、
少し猫背にしている
長身のジョージが目についた。
「久しぶり」
メールでのやり取りはしているが、
実際に会うのは4か月振りになる。
この夏はお互いにいろいろとあって
知らぬ間に時間が流れたのだ。
「新しく見つけた店に行こうや」
北口のロータリーを渡りながら
ジョージが言った。
高円寺には星の数ほどの、
っていうとオーバーだが、
数え切れないほどの飲み屋がある。
その中の新星を見つけたらしい。
その店は鶏皮を串揚げにする店。
ピラミッド盛りを頼んだのだが、
その量の多さには驚嘆した…。
“とても食い切れそうもないな”
…と、まぁ、そんなことはいいか…。
「“藻の月”の予定は…どうする?」
串揚げと格闘しながら
まずは焼酎で宴をスタートさせた
ジョージに問うた。
「いまはどうゆう状態?」
と、逆に訊いてくる。
「夏休みだよ」
「随分となげぇ夏だな(笑)」
「まったく(笑)」
新しいアルバム『Sir(サー)』を出して、
少し走り出したところで
サービスエリアに寄って休んだのだが、
そのままずっとそこに居る…。
…とでもいえばいいのだろうか。
現実的には、いまの“藻の月”は、
流れそのものが切り替わる
タイミングなのかも知れない。
4人の波長が変わって来たように思える。
それは、“音”だったり、
“生活スタイル”だったり、
“生き方” だったりするのだろうけど、
この4年余りの活動の中で
それぞれが次の段階を迎えた気がするのだ。
「夏のあいだに禁酒したら、新曲が6曲もできちまってさ」
そう言いながらジョージが、
焼酎をお湯割りに切り替えるように
話題も切り替えた。
「これまではずっとストレートな詩が、なんか照れ臭くてイヤだったんだけど、酒が抜けたら不思議にソッチに行ったんだよ」
「そりゃ、いいね」
と、本気で思った。
ジョージの詩には比喩があり、
物語的な要素が魅力的なのだが、
聴いた瞬間には入り込めないところがある。
ボキャブラリーに乏しい僕は、
「ジョン・レノンだね?」
と、(ストレートな詩ってやつのイメージを)返してみた。
「そう、ジョンだ」
ジョージも頷く。
ジョン・レノンのどの辺りとか、
なんちゃらかんちゃらがあるのだろうが、
そこから先へは決して突っ込まない。
それでいいような気がした。
Hold On (Remastered 2010)
結局、会わなかった4か月の
インターバルの空気感は、
たった4日間の出来事だったように
会話の中に浮かんで流れた。
「で、藻の月は?次はどうする?」
“そうそう、それを話しに来たのだ”
と思いながらハイボールをおかわりする。
「まだだな、もう少し考えるよ。今はそれぞれが個人的なロケットに乗って月の周りを回っている、とでもブログに書いといてくれよ」
そう言いながらジョージは、
店のキュートな店員娘に、
「お湯割りをもうひとちゅ、お願い!」
と、茶目っ気たっぷりに
今日一番の笑顔を振りまいた。
ほんと、可愛い子には愛想がいいのである。
それを見て、
“さて、酩酊する前に帰るとするか”
と思うことにする。
これ以上ジョージに飲ませると、
せっかくのストレートな詩が
月のロケットに乗って、
何処かに飛んで行っちまいそうだ。
やっぱり食いきれなかった
鶏皮の串揚げピラミッドに別れを告げ、
僕らは寒空の高円寺を歩いた。
…………………………………………
僕らは今、いったい、
どの辺りで遊んでいるのだろうか?
夏が過ぎ、秋も深まり、
寒い冬を迎える季節に
僕らの人生そのものも
存在しているような気がする。
そんな、さまざまな想いが宙を舞い、
浮遊しながら夜空を昇っていく。
帰り道、家の手前にある
川沿いの公園のベンチで小休止した。
レンに送ったメールの返信が来ているので確かめてみたのだ。
“そっかぁ、(ジョージの)新曲楽しみだな。別のロケットに乗って月の周りを回っているっていうイメージ、俺も近ごろ感じてる。同じ月を見てるけど、(個々のメンバーが)それぞれの軌道と速さで回ってて、一緒にいるようで別の旅をしてる。それでも月に照らされてつながってる(って感じ)。俺もぐるぐると考えていたけれど、やっぱ音だしたいな。”
っと、書いてあった。
川面に沿って北風が吹き抜けて行く。
その西に向かったはるか向こうに
ぽっかりと“霜月”が浮かんでいた。
月はゆっくりと流れていた。
僕らの時間も、
それに合わせて進んでいく。
しばらくは、
それぞれの軌道で回ってみようと思う。
淡い月明かりの下で、
そんなことを考えていた。

(2025/11/11)
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