第64怪『お盆なので、例の如く霊のはなし』

第64怪『お盆なので、例の如く霊のはなし』

突然に目が合ったような気がした。

“若い女の子だ” そんな気がする。

見上げた天井の下くらいのところから
じっとこちらを見ている。

悪友は僕が寝ている左側にあるベッドで
同棲している彼女とイチャついている。

「泊まっていけよ」

と言いながらイチャイチャするのが好きなのだ。

そんな悪趣味をすっかり忘れて
泊まってしまった自分もバカなのだが、
今はそれどころじゃない。

僕は僕で得体の知れない彼女に見つめられて
身動きが取れないでいるのだ。

顔を確認できるわけではないのだが、
はっきりとそこにいる気配を感じる。

それは怖いときと、そうでないときがある。

でも、今ははっきり言って怖い。
とんでもない恐怖なのだ。

「あのぅ、ちょっとすみません、お取り込み中のところ何なんですが……」

と、僕が寝ている布団から
2メートルほど離れたベッドで
仲良くしているカップルに
話しかけたいのだが、
声がまったく出ない。

体も固まっている。

こういう時は、このまま耐えるしかない。

そのままでいると、
やがて耳鳴りのような重圧が
脳の方へ移動するように、
“ゴォー”っという響きになり、
気が遠くなっていく。

それを経験しているがゆえに、
僕は抵抗してみる。

すると、金縛りが解けて、
少しばかり動ける状態になることがあるのだ。

初めてこの状況になったのは14歳の夏だった。

そのときは仰向けから
横向きに寝返りを打ったら、
対象物が横を向いている僕の顔の
すぐ隣りに移動してきたことがあった。

これはマンモス・ショックであった。

対象物が“スー”っと、
僕の横に横たわるのを感じるのだ。

瞬間、言葉にはできないほどの恐怖が走った。

そのときの僕は、
とっさに顔まで毛布を被った。

いや、夏だったので
タオルケットのような薄い生地だったのかも知れない。

対象物が、
“完全密閉されていないその無防備な隙間から、こちらを覗き込むのでは?”
と、想像した。

“頭に被ったその薄い生地を摘んで、剥がされるかも知れない”

そんな妄想に震え、
恐怖の中で喘いでいたら、
いつの間にか気を失ってしまったらしい……。

……気がついたら朝だったのである。

…………………………………

さて、その悪友の部屋で起きた修羅場に戻ろう。

アパートの一室、その真っ暗な空間で、
天井に近い鴨居のあたりから
少女がこちらを見下ろしている。

すぐ横ではカップルが
イチャイチャしているという、
とんでもないシチュエーションに僕はいた。

どのくらいの時間が経ったのだろう。

長いようで、
案外すぐだったのかも知れない。

金縛りが解けるのを待って、
例の如く僕は
掛け布団を頭まで被った。

その行動はもしかすると
隣りのカップルに、
どえらい勘違いをさせてしまったのかも知れないが、
僕にはそれを気にする余裕はなかった。

布団を被り、
しばらくジッとしているうちに
寝てしまったようだ。

……気がついたら朝だったのである。

…………………………………

翌朝、何事もなかったように悪友の部屋を後にした。

高円寺の北口、
純情商店街にある喫茶店で
悪友と共にモーニングをとっていたら、

「何だよ、やっぱ元気ねぇな。元気出せよ」

って、励まされた。

そうなのだ。

僕は当時、
7年間も付き合っていた彼女に振られて、
昨日の夜、彼の家で慰められていたのだ。

「いや、俺は別に落ち込んでいるわけじゃ……」

と言いながら、
これみよがしにトーストをかじる。

「何だか顔色が悪いぞ」

と言うこのトンチンカンな悪友に、

「お前んち、若い女の霊がいるぞ!
イチャイチャしてると取り憑かれるから
気をつけたほうがイーゼ!」

っと、心の中で忠告した。

現実には言えなかったのだ。

彼がずっと住んでいる部屋だったのだから。

そのことは、
その後も彼に会うたびに喉元まで込み上げた。

「そういえば、あのときさぁ……」

って、伝えたかったのである。

でも、彼はその後、別の場所に引っ越し、
付き合う彼女もかわり、結婚もした。

“いまさら言ってもしょうがねぇなぁ”

と思いながら、
その後も一緒に酔っ払ったりすると、
酒の肴にぽろっと出そうになるのだ。

そうしているうちに
あっという間に年月が過ぎ去り、
俺たちはジジイになった。

数年前、
その彼も残念なことに逝ってしまった。

“ついに言えなかったな”

ふと、天井に近い宙に目をやる。

「あの時さぁ、お前の部屋に若い女の子の霊がいてさぁ……」

そう言いかけて、やめた。

考えてみれば、
今さら俺が教えてやる必要もない。

アッチにいるなら、
もう、とっくに知っているかも知れないのだから。

(2026/08/08)

P.S.
今年もお盆がやって来ました。
アッチに逝ってしまった、
すべての愛する人たちへ。
今年も、ちゃんと思い出しています。
どうぞ安らかに……。

🔷INFORMATION🔷

8月11日TUE山の日
西荻窪アナログ天国
山口冨士夫「プライベートカセット」
40周年記念スペシャル
『爆音で聴くよもヤバ話』Vol.2
/FUJIO YAMAGUCHI爆音天国

予約
http://www.higuchi-s.jp/greeting.html

8月29日sat. 高円寺/稲生座
※出演予定だったジャジャ岩城を
追悼するライブを行います
出演/ジョージ&カブト・Shim Unit
Live Charge ¥1650+D
Open 19:00
19:30〜21:30 Live Time
21:30~24:00. Bar Time