第16怪『その後のノンちゃん・幸せのはじまり』

第16怪『その後のノンちゃん・幸せのはじまり』

正月過ぎからずっと
MAKIの部屋に通っている。

MAKIが可愛がっていた
猫のノンちゃんに御飯をあげるためである。

誰も居なくなった部屋に残された
MAKIのノンちゃんは、
傷ついて不安そうであった。

だから、おいそれと
コチラには近寄っては来ない。
リラックスできないのか、
警戒心いっぱいで様子を伺うのである。

MAKIが旅行で居ないときや、
病院に入院しているときなどは
何度か我が家で預かっていたのだから、
それなりに親しい仲であるはずなのに、
妙によそよそしいのであった。

「ノンちゃん!」

抱き上げて椅子に腰掛けた。

″ニャ!″

声にならないほど小さく鳴いて、
膝の上でモゾモゾとしたノンちゃんは、
それでも久しぶりの人肌が嬉しいのだろう。
顔をソッポに向けたまま、
ごろごろという音を立てている。

″かわいそうに″

そうは思うのだが、
MAKIは独り住まいだったので、
他に面倒をみてくれる人がいないのだ。
加えてこの部屋も退去しなければならない。

娘の家には犬 🐶  がいる。
息子とウチにはアレルギーがある。
(僕は何でも平気なのだが)
妹家族にもアレルギーの人がいて、
片っ端からメールした知人からは
良い返答がないのだ。

いったいどうすればいいのだろう?

ネコイヌの本はベストセラーの常連だし、
ネットだってペット動画で溢れているではないか。
なのに、″ウチのノンちゃん″は・・・
と、改めてノンちゃんを眺めると
なんだかとっても切ない顔をしているのだ。

「誰ももらってくれないんだって」

そう話しかけると、

「ニャア!」と鳴いた。

猫もある時から人間の話が
わかるようになるという。
MAKIの愛情を目一杯受けたノンちゃんは、
きっと言葉がわかるようになっているのだろう。

夕暮れどきに行き、
暗くなった部屋に灯りを灯しながら
ノンちゃんと過ごす日々が
もう何日も続いている。

コチラの足音でわかるのだろう。
玄関の扉を開けるなり、
″ニャア〜!″と鳴きながら、
小走りに迎えてくれるようになったのだった。

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餌と水をあげ、
抱っこしてしばし可愛がり、
MAKIの話をする毎日が続いた。

すでに10日以上経つのに
里親は見つからなかった。

あきらめて、
ネコアレルギーをやわらげる餌を買い、
(これがまた高額なのだ)
決死の覚悟で我が家で飼おう、
そう決めた矢先・・・

″たいへん!里親がみつかるかも″

娘からLINEがきたのである。

ジモティに登録したとたんに、
立て続けに応募があったという。

そこからはトントン拍子にことが進む。

決定権は娘に任せた。
僕は人を見る目が曲がっているので、
成すべき事も曲がり気味になることが多い。

″里親になるふりをして猫に酷いことをする″

″里親になり金額を要求してきて、さらに猫を転売する″

など、里親までも商売にする輩や、
女性に対して恨みを持っていて、
それを猫にぶつける
サイコ野郎までいるのだという。

カンタンには信用できない。

だが、ノンちゃんの里親に
名乗りを上げてくれた人たちは、
皆さん良い人だった。
全員が女性であった。

娘はその中から、
最初に希望してくれた女性を選んだ。
70歳のペットロスに寂しがる
一人暮らしの女性を選択したのだ。

″彼女にMAKIと同じ風景を重ねたからかも知れないな″
僕はそう思い、少しホッコリとした。

そんなわけで、ノンちゃんの餌やりは
ちょうど2週間で終わりを告げた。
同時に部屋の片付けも終了したのである。

…………………………………………

ホッとしたこともあるが、
今年になってから
まだ会っていなかった
ジョージに会うことにした。

″今年は何をどうしようか″

なんて大義名分を肴に
酒を呑もうというのである。

高円寺の『なんとかバー』に行くと、
夜の7時だというのに結構な客がいた。
そのうち安井が来て、
ジョージが来たので、
酔っぱらわないうちにLIVE話をまとめ、
酔っ払って、
ある事ない事を言い始めた頃には、
ジョージもベロベロになってご帰還あそばした。

しかし、高円寺には実に不思議な輩が多い。
見てくれもそうだが、
中身がそれぞれに独特なのである。

冨士夫のマネージャーだった頃、
高円寺で呑んでいると周りの人が集まって来て、
結局、その他大勢に奢るハメになることがよくあった。

「此処は俺が奢るから!」

って、
冨士夫が花火を上げるのだから仕方ない。

そんなこんながトラウマになり、
僕は長い間、
高円寺が苦手だったのである。

…………………………………………

さて、
高円寺で酩酊した夜の翌日が
ノンちゃんの引き渡し日だった。

ゆえに、
完全な二日酔い状態で僕は
約束した場所に娘をエスコートした。

迎えに来てくれたのは、
優しそうな2人の女性であった。
一人暮らしの叔母に
ノンちゃんを届けてくれるというのだ。

「綺麗な顔をした猫ちゃんですね」

ノンちゃんを見て、
褒めながら撫でている。

勝手なもので、
いざ、別れるとなると寂しくなる。
一通りの注意事項を娘が相手側に伝え、
お別れすることにした。

「ノンちゃ〜ん、さよなら〜」

見送りながら、
元日から2週間余り続いた日々が、
走馬灯のように流れるのだった。

…………………………………………

次の日は日曜だった。

ゆっくりと昼近くに起きてのんびりとする。
腑抜けたような時間が流れると、
あっという間に夕暮れどきになった。

″そろそろノンちゃんのところに行かなきゃ″

いや、もう行かなくてもいいのだ。

何かが終わると、
何かが始まっている気がする。

そう、ノンちゃんのそれは、

新しい“幸せのはじまり”に違いない、

と想うのである。

(2022/01/20)

PS.

藻の月は3/27(日)に
高円寺『ShowBoat』でLIVEをやります。
ラインナップは、
『マンホール』と『RANGSTEEN』
前売2500 当日2800
open18:00 start18:30
(時間は変わる場合があります)