第27怪『お盆のちょっとこわい話』

第27怪『お盆のちょっとこわい話』

お盆なのに台風である。
雷まで鳴っているので複雑な気分だ。
こんな日はだらっとしているのがいい。
こわぁ〜い話でも思い浮かべながら…。

『其の一 首都高速』

若い頃、芝浦に会社があった。
最寄りの駅は田町である。
アルファレコードの裏側にあり、
某広告代理店の制作会社であった。

当たり前のように深夜まで仕事をしていた。
近くに簡易的な宿泊施設がなかったから、
うっかりと仕事机につっぷしたまま
朝を迎えることもある。

それでも、どうしても帰りたい時は
タクシーチケットを使って帰宅する。
(どこかの馬鹿がこのチケットを転売して、後に廃止になるまでは)

「高速を使いますか?」

タクシー運転手が必ず訊いてくる。

「そうしてください」

芝浦から高井戸まで利用するのだが、
一般道を行くより圧倒的に速いのだ。

そのとき、どこらへんを走っていたのだろうか、
軽いカーブが続き、
夜空を背景にしたビル群を窓越しに眺めていた。

ふと、高速の壁越しに
動線の行く先を確かめたときである。

誰かが壁に立っている、

と思った。

100キロ近いスピードだったので、
あっという間に行き過ぎたのだが、
高速道路の壁の上に
やや前のめりに立つ男の
残像が脳裏に残った。

なんだ、今のは?!
そう思ったとき、

「見ましたか?」

と、運転手が聞いてきた。

「…ええ」

とだけ僕は答えた。

錯覚ではなかったのか!?
運転手も僕も何故か
それ以上の会話はしなかった。

石神井の自宅に戻ったときは
深夜の3時を回っていただろうか?
MAKIや子供を起こさないように
そっと夜食をとってから、
いつの間にか寝落ちしてしまったのだ。

5時間くらいは寝たのだろか、
翌朝、茶の間でカタツムリのように
なっているところを
MAKIと子供に起こされた。

「おはよう」

とMAKIは少し眠たそうだった。

「おはよ〜」

と僕も応えた。

MAKIは大きなマグカップに
いつものミルクティを入れてくれながら言った。

「昨日は真夜中に誰を連れて来たの?随分と騒がしかったけどさ!おかげで寝不足だよ」

って…。

『其のニ ヒールの音』

今は住宅街になり、
すっかりと明るくなったけど、
僕の住むかつての石神井は、
どこを見ても畑で構成される
実に薄暗いロマンチックな地域だった。

想像力豊かで怖がりだった僕は、
キャベツ畑の中に人顔を思い浮かべたり、
トマト畑の向こうから走ってくる
白装束のおんなを妄想したりしていた。
(ほとんどノイローゼだね)

高校生になっても最初の頃は
サッカー部と陸上部に所属していて、
部活をしてからの帰宅となる。
(そのうちロック部と不良部に入り、世の中がゆがんで見えるようになるまでは…)

6時頃まで部活をやり、
街灯の少ないキャベツ畑脇の
薄暗い道を歩いていた。

″疲れたべ″

重い足を引きずるようにダラダラと
歩を進めているときである。

ふいにヒールのコツコツという足音が
耳に聞こえてきた。

振り向くと30メートルほど後ろに
女の人が歩いているのが映る。

前を向き直り、
″なんだか怖いな″って訳もなく思った。

脳裏に今見た女性の姿を浮かべてみる。
深めに帽子を被っていただろうか、
それよりもあんなに離れているのに
ヒールの音がやけに大きく響く。

気になって、もう一度振り返って見た。

すると、すでに10メートルほどの後ろに迫っていた。

″足音は同じなのに!″

脳裏に今見た女の
ピンクのワンピース姿が浮かんだ。

″怖い!″

と、ビビった瞬間、僕は反射的に走った。

そのときである、キュッと、
ワイシャツの背中を引っ張られた(気がした)!

うわーっと、
家路まで全疾走するのであった。

陸上部でよかったと思った。
サッカーでも右のウイングだったのだ。
関係ないが…。

でも、今でも時々考えるのだ。
あれは単なる錯覚だったのかも知れない、
って。

女の人は普通に歩いていて、
前をダラダラとゆるく歩く高校生が
振り返りざま、
突然に走り出したのではないかと。

しかし、この時以来、僕は、
ヒールとピンクのワンピースには
トラウマであるのです。

『其の三 タクシー』

吉祥寺駅の中央タクシー乗り場に並ぶことが多い。

僕は運転手でもある。

ソコは駅ビルの搬入口や
お客様駐車場とも重なるので、
何台ずつか変則的に並ぶことになる。

最終的には4台ほどが続いて並ぶのであるが、
信号が複雑に変わるので、
『青』から『青』の循環に
けっこうな時間がかかる。

ゆえに、繁忙期は利用客の列ができるのだ。

その時、僕は4台目に並んでいた。

10人余りの列ができている客が
順番にタクシーに乗り込んでいるのを見ている。

僕は自分の番にくる客を確かめた。
若い夫婦と小さな子供たちだ。
2人の男の子がお母さんと絡んでいる。

3台目のタクシーに客が乗り込むのを見て、
少し離れているが僕もスライドドアを開けた。

それに気がついた2人の男の子が
小走りにコチラに向かってきた。
慌てたように母親がそれを追いかけて
バタバタと3人が後ろに乗り込んだ。

遅れて来た父親が近くまで来たとき、
助手席に置いてある自分の荷物を
片付けようかと迷った。

全員が後ろでは窮屈なのでは?
と気を遣ったのだ。

しかし、その父親もすっと、
そのまま後ろに乗ってしまった。

「ありがとうございます」

と、まずは言うことにしている。

言いながら犬のような横目で
背後のお客様の印象を確かめておくのだ。

″えっ!?″
後ろを斜め見して驚いた。

あろうことか、
後席には最後に乗り込んだ父親しか居ないのだ。

先に乗り込んだ3人はどこに行ったのだろう?

「●●●までお願いします」

暗い声でその父親が言ってきた。
そう遠くはない住宅地の中である。

「はい、わかりました」

と言いながら、
いま見た現実を父親に伝えようかと思った。

でもどう言ったら良いのだろう?
というか、今見たのはなんなのだろか?

混乱した頭で発車する。

父親、いや、父親だと思った男は、
窓の外を眺めながらため息をつき、
これ以上ない暗く重い空気感を
漂わせている。

「大丈夫ですよ、ご家族は一緒にタクシーにお乗りですよ」

とでも言うべきか、

でも、錯覚かも知れない。
見えたのは確かなのだが、
明らかに現実的には
僕がおかしいのである。

結局、何も言えないままだった。

とても話しかけられる雰囲気ではなかったからである。

さてさて、世の中は不思議が渦巻いている。

お盆は旅立った人たちを迎える
年に一度の大切な時間だ。

ちなみに誕生日と命日の両方を
この時期に刻む冨士夫は、
強力なアッピールをしてくるかも知れない。

覚悟しておこう。

どなた様も仕事の手を止め、
ありもしないことを考えながら、
ゆっくりと天を仰いでみてください。

そういえば、
一昨日の夜はとても綺麗な満月であった。
29.5日後の十五夜も
あんな大きな月が見れますように。

そのときにお逢いできれば
実に幸いなのです。

(2022/08/13)

2022/09/10 sat.満月
国立/地球屋

『藻の月 / 路傍の石』ツーマン

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