第54怪 『国立・地球屋“藻の月”/大西基・写真展での“どんと” “プライベーツ”』

第54怪 『国立・地球屋“藻の月”/大西基・写真展での“どんと” “プライベーツ”』

先週の土曜はなんだか不思議な夜だった。

国立・地球屋での藻の月のLIVEだったのだが、
地に足が着いていないような
妙にうわずった夜だったのだ。

これは単に個人的な感覚なのだが、
夏のはじめはいつもそうなる気がする。
梅雨と夏の狭間に吹く風で
一瞬、心が浮いたようになる。

5時になっても昼のように
明るい景色のなかで、
カノンやレンと世間話をする。

そこに真っ昼間から
「のんぢゃって、ベロンベロンなんすよ!」
というコイワイくん(good lovinレーベル)
が加わり、やっと日が暮れていくのだった。

対バンの『路傍の石』には
ズズ(鈴木将雄/ex. Street Sliders)がいる。

濃厚な音を放ちながら
1時間もの長きリハを終えると、
スライダーズ・ファンらしき
オーディエンスたちが流れ込んでくるのだ。

そこに藻の月の見知った顔も加わり、
スタンディング形式にアレンジしたフロアは、
瞬く間に満杯になり、
めくるめく魔法の時間が始まる。

ズズが振るタクトに合わせて、
『路傍の石』のツイン・ギターヴォーカルが
交互に想いの丈を放っている。
あるときは首から胸を掻きむしり、
あるときは重く唸りながら息を吐く。

空間に音が振動して、
オーディエンスの五感が揺れ動く。
Qちゃんのベースが奏でる波長が
その深いところで響いているのだ。

Hope you understand

ステージ上の機材のすべてを交換するための
少し長いインターバルのあと、
『藻の月』がステージに立った。

「いまの藻の月は“雰囲気”が大事だと思うんだよね」

いつも、謎かけのように放つ
レンの言葉の中で、
最近ではこの“雰囲気”発言を
僕は気に入っている。

単なるR&Rとかサイケデリックではなく、
お互いのグルーヴ感の中で、
どこまで共鳴していけるのか。

それを“音”だけにとどまらず、
アートや思考までを巻き込みながら、
色々と展開していければいい。

と言っていたレンの言葉を思い出しながら、
この夜のステージを観た。

今はまさに“雰囲気”の中で、
ステージをやる度に変化する『藻の月』がいる。

まとまるよりも広がることを意識したグルーヴ感を、
いったいどれだけの人が感じてくれただろうか…。

ゆらゆらと揺れ動く音の波長が、
空気間を伝わって心に響いた瞬間、
僕は喉を湿らすためにカウンターに向かった。

ステージから “ノーサクリファイズ”の
イントロが聴こえてくるなか、
3杯目のハイボールを注文するのだった。

No Sacricaice:monotsuki

明けた日曜は『大西基/写真展』に出向いた。

四谷の裏通りにあるアパートメントをアレンジして解放しているギャラリーである。

大西カメラマンは、
’88から始まるバンドブームに乗っかって、
各音楽誌を中心にバンドを撮りまくった大御所である。

まあ、大御所なんていうと、照れて隠れてしまいそうな謙虚な人でもあるのだけれど…。

ジョニー・サンダースから始まる
壁に展示した写真のどれもが、
覚えのあるバンドのポートレイトだった。

とはいっても当時の冨士夫のバンド、
『タンブリングス』と『ティアドロップス』は、
このての若きメジャー・バンドたちとの交流が少ない。

僕が確認する限り、
この日の壁に展示してある中では
『プライベーツ』と『どんと』だけだった。

レコード会社から、
「新しく入ってきたバンドが挨拶がしたいと言って来てますが」
という要望を受けたりするのだが、
お断りして失礼したケースが幾つかあったのを思い出す。

そうやって断ったバンドほど、
その後大きくなっていき、
なんとなく苦笑いした覚えがあるのだが…。

BLANKEY JET CITY /「ガソリンの揺れかた」Music Video (4K UPGRADE)

『どんと』と冨士夫は格別に仲が良かった。

相方の『永井くん(永井利充)』と共に
京都にルーツがあったので、
『村八分』つながりが
程よい接着剤の役割を果たしたのだと思う。

Photo by 大西基

やがて、『ローザ・ルクセンブルグ』から『ボ・ガンボス』になり、
当時のイベンターたちが、

「来年の目玉になるバンドだと思っていますから」

なんてスポット話を聞きつけ、

急いで『ボ・ガンボス』のマネージャーだった
Sさんのところに飛んで行って、

「ウチも混ぜてください」

ってお願いした覚えがある。

そんなこともあり、
その頃、派手に展開していく
『ボ・ガンボス』のイベントには、
ひょっこりと『ティアドロップス』や
冨士夫がゲストで参加していたりする。

BO GUMBOS feat. 山口冨士夫 どうしようかな

“このテがあったか”

と素人個人事務所の『ティアドロップス』は、
『タイマーズ』『ピンク・クラウド』に対しても
同じようなコバンザメ作戦をお願いして、
ステージアクトに“しれっ!”と登場するのであった。

忌野清志郎 エフエム東京罵倒ソング

【Live】PINK CLOUD「からまわり」1990

さて、
一方の『プライベーツ』とは東芝EMIつながりである。

Photo by 大西基

東芝EMI創立30周年の記念イベント
『ロックが生まれた日』で、
冨士夫はノブちゃん(延原達治)と、
青ちゃんはショーネン(手塚稔)と
共にバンドを組んだ。

このイベントの趣旨を東芝EMIから説明されたとき、
冨士夫と青ちゃんの姿を脳裏に浮かべ、

「馬鹿馬鹿しいから俺たちはパスするよ」

と言われたらどうEMIに対処しようか?
と考えていたのを思い出す。

しかし、意外なことに2人ともノリノリで、
この前代未聞のお祭り騒ぎは、
バブル時代の象徴の如く
オールスターで騒ぎ切ったのであった。

君が君に スローローラーズ(THE PRIVATES)
※ノブちゃんと冨士夫が『ロックが生まれた日』のために共作した曲。バブルだった当時に投げかけたアンチテーゼ。

ノブちゃん自身はその後も
個人的に冨士夫との繋がりを保ち、
冨士夫亡き後も
『山口冨士夫トリュビュート・バンド』を
吉田さん(ex ダイナマイツ)と共に仕切り、
現在に至っている。

君が君に 山口冨士夫 akira rhythm

縁があって、
数ヶ月前に幡ヶ谷『ヘビーシック』で行われた
『プライベーツ』のステージを観て驚いた。

断然良いのである。
文句のつけようのない迫力があったのだ。

THE PRIVATES 2025:05:03 幡ヶ谷CLUB HEAVY SICK

さて、今年も半夏生(はんげしょう)が巡り来て、
半分を過ぎたことを知らせてくれる。

いずれにしても『藻の月』は夏休みに入った。

昨日までは忘れ去りしことだし、
明日からは全くの白紙である。

でも、新たなる音が鳴りだす雰囲気はある。

それは、雨の降らない梅雨から
蝉の声に夕立が湧き出す頃、
あっという間の出来事なのかも知れない。

(2025/07/02)