第44怪 吉田さんパワー

第44怪 吉田さんパワー

思えば吉田さんが現れてからだと思う。
冨士夫のパワーが戻ったのは。

足首が象のように腫れ、
「これは水が溜まっているのだよ」
と訳知り顔で誤診した
某病院のドクターに見切りをつけ、
日の出町のつるつる温泉の近くにある、
ガンさん(クロコダイルのオーナー)のコテージで
冨士夫は療養をしていた。

そこに足繁く通ってくれたのが吉田さんである。

渓流釣りをし、
釣った魚を焚き火で焼き、
森の木々の間から照らす
月明かりの下で乾杯をした。

「あのおとなしかった冨士夫が、バンドを率いていること自体が俺には信じられなかったよ」

赤ら顔を揺らして、
吉田さんは楽しそうに笑う。

実家は塗装会社を経営していた。
ゆえに『ダイナマイツ』後は、
後を継ぐと決めていたのだ。

『ダイナマイツ』契約終了は1969年の大晦日、
吉田さんは長髪をバッサリと切り落とし、
サッパリと家業を継いだのである。

そのときの吉田さんは、
ちょうど二十歳になる年だった。
そこからは、一切の音楽ごとに関わっていない。

だから、
冨士夫のその後のことも感知しなかった。
『村八分』も、『タンブリングス』も、
『TEARDROPS』のことも知らない。
いや、噂には聞いてはいたのかも知れないが、
自分の仕事に没頭していたのである。

だから、吉田さんの知る冨士夫は昔のまま。
無口でおとなしく、誰とも喋らずに、
いつも一人で本を読んでいるような同級生。

『ダイナマイツ』になり、
音楽だけが唯一の自己表現になった冨士夫は、
メンバーそれぞれのパートの音を把握し、
全員に伝えるのが日常になっていた。

「だからさ、その冨士夫がバンドを仕切っていること自体が、今だに信じられないんだよね」

それだけ、2人の時間は止まっていたのである。

森の月明かりの下で、
40年振りに再会した2人は、
焚き火に当たりながらギターを持った。

「初めて2人で演った曲からいくか」

と言ったかどうかは知らないが、
遥か昔に一緒にハモった
『ピーターとゴードン』の曲が
お互いを少年時代に押し戻していく。

A World Without Love / Peter and Gordon (With Japanese lyrics)

そのとき、不思議なことが起こった。

弦を押さえる握力さえも
無くしていた冨士夫の身体に、
音の力が戻ったのである。

“吉田パワー”効果なのか、
そこからはみるみる冨士夫の身体に
色彩が戻っていく気がした。

「それなら、昔を思い出して、また一緒に演ってみるか」

そう言い出した吉田さんに、
(吉田さんの)奥さんは
黙ってベースギターをプレゼントしたという。

改めて冨士夫と共にステージに立つ。

吉田さんにとっても40年振りだった。

その懐かしい想いに付き合ったのは、
ナオミちゃん(チャイナタウンズ)とハマー(exベガーズ)。
そして、その時に観に来た青ちゃん(青木眞一)も、
ステージに上がったのだ。

そこから、もう一度、
冨士夫は復活することができた。

吉田さんとナオミちゃんに加えて、
ノブちゃん(延原/プライベーツ)、
P-chan(ブルースビンボーズ)、
カズ(中嶋一徳)や花田さん(exルースターズ)
が加わったり、ゲストで参加したりして、
冨士夫の復活シーンは華やいだものになった。

そこから約5年もの間、
体調の変化に振り回されたりはしたが、
晩年の冨士夫のステージには、
“諦めないで生きる”メッセージのようなものがこもっていたと、
僕は思っている。

最後のステージは、
アースダムでの『藻の月』のゲストであった。

僕は、
“その時間を引き継いで見ているのではないか”
と、ときどき思うことがある。

まぁ、それは、妄想なのかも知れないが…。

繰り返し流れていく時間の中で、
僕らはいつも何かを想って生きている。
数えきれない希望や、
忘れてしまいたい失望や、
信じられない奇跡の数々を、
空を見るたびに想い描くのだ。

“吉田パワー”は、
その中の奇跡のひとつだと思う。

そして、それを10年も引き継いでいる
『山口冨士夫トリビュート・バンド』は、
永遠に繋がっていく仲間への想いかも知れない。

言い出しっぺのノブちゃん(延原達治/THE PRIVATES)に感謝します。
そこに若々しく乗っかった吉田さん(吉田 博)に感謝します。

P-chan(ブルースビンボーズ)
ナオミちゃん(ナオミ&チャイナタウンズ)
芝井直実さん、
花田裕之さん、
ショーネン(手塚 稔 / THE PRIVATES)
に感謝します。

忙しいなか、駆けつけてくれた心ある人たちに感謝します。

そして、忘れずにいてくれる全ての人たちに感謝します。

ありがとうございました。

(2023/09/23)

PS/

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