第5怪『ヤスイくんとマエダくん』

第5怪『ヤスイくんとマエダくん』

マエダとヤスイが混じり、
グチャっと打ち上げるのは久しぶりだった。
そこにコイワイが入ると
ほとんど『我が家』の気分でもある。

世間はまた緊急事態宣言である。
不平等で不自由な日々が強いられる。

それでも、 
先月の『藻の月/ShowBoat』の
打ち上げの時点では、
まだマンボウだったこともあり、
久しぶりに昔の仲間が揃ったのだ。


藻の月


Magical Lizzy Band


すばらしか

「”ものつきばなし”を書くんだったら、ヤスイのことを書かなくちゃ」

(サミー)マエダが昔と変わらぬ顔をして
その場で突っ込んできた。
ヤスイとは『藻の月』のベーシスト、
ムーン安井のことである。

そういえば、ヤスイは当時から
″ムーン″と呼ばれていたから、
『藻の月』に入ったから
ムーンになったわけではないのだ。
(まぁ、どうでもいいことではあるが)

話は35年以上も前にさかのぼる。

『タンブリングス』初期のころ、
クロコのステージ終わりに、
冨士夫プリントのTシャツを着た 
髪の長い少年が客席の奥から現れた。

そーゆーことに目ざといマエダが、
さっそくツカツカっと寄って行き、尋ねた。

「そのTシャツ、どうしたの?」

すると少年は、
背中まで届こうかという長髪を
サッと後ろに流しながら、

「自分でプリントしたんだ」

とドヤ顔をした(ように見えた)。

TEARDROPS時代ならわかるけど、
タンブリングスの時の冨士夫は、
まだおっかない。

自分の顔を勝手にプリントされた事を知ると、
烈火の如く怒るのだろうか?
そんな懸念もあったが、
そのままスタッフとして
手伝ってもらう事になったのだから、
怒りはしなかったのだろう。

当時のバンドを取り巻く客も
今でいうゴールデンエイジが中心で、
相当な不良が集まっていた。
そんな輩たちで当時のクロコダイルは、
70年代の雰囲気満載だったのである。

そこにひょっこりと現れた
18歳のヤスイ少年である。
目立たないわけがない。

「彼をスタッフにしようよ」 
抜け目のないマエダが進言した。

同じ世代のその少年が入れば、
マエダの負担が少し補える。
と思ったのかどうかは定かではないが、
楽器ができるローディは
確かに必要だったのである。

改めて聞くと、 
ヤスイ少年は北海道から出てきたばかりで、
PA(音響)の学校に通いながら
横浜で新聞配達をしているということだった。

″新聞少年か″

真面目な苦学生にありがちなパターンなのだが、
ヤスイを見る限り例外があるように思えた。

さっそくヤスイ少年は、
ライブのたびに参加することになったのだが、
(ステージは毎週のようにあった)
ステージ終了後に横浜まで帰るのは難儀だった。
終電に間に合わないのである。

だから、そのうち、自然の流れで
ウチに連れて行くことが多くなる。 

そこに腹を空かせたマエダが加わって、
我が家が俄然、騒がしくなった。

喜んだのは幼い子供たちだ。
気がつくと息子と娘を背に乗せて、
馬になって遊ばれているヤスイがいた。

マエダは好物の雪見大福なんぞを頬張り、
ゲラゲラ笑いながらソレを眺めている。
いま思うと、ソレはそれで、
何の決め事もない
かけがえのない時間だった気がする。

大学生のくせに
キャンパスに通わないマエダと、
新聞配達を忘れたヤスイが、
ゴロゴロと我が家でローリングして、
立派なロック教徒に孵化していったのである。

その模範になる先生たちは身近にいた。
『外道』『村八分』『Too Much』、
これ以上の存在感はないだろう。

逆にマエダは、
オイラにとってのセンセイでもあった。
コチラがあまりにも周りのシーンを
何も知らなかったので、
いろいろな価値観と共に
今ある状況を伝授してくれたのである。

そこで改めて冨士夫が凄いと思った。
そこでもっと、
フールズが好きになったのかも知れない。


ヤスイ少年

やがて、月日が流れ、
2人とも自らの得意技を活かして
それぞれの道を歩んで行くことになる。

ヤスイは楽器の知識を活かして、
レオミュージックで活躍?したりした。

マエダは情報誌『シティロード』で
内輪の情報を何気なく仕込み、
豊富な音楽通の知識と、
GS(グループサウンズ)の
マニアックさに磨きをかけ、
いつの間にかSONYの
ディレクターになったりしていた。
現在はサミー前田と名乗り、
DJや音楽プロデューサーをしているのである。

その2人と今でも変わらず、
こうしてグチャっと打ち上げている。

突然にひとつ向こうの席にいたヤスイが、
思い立ったように寄って来て言った。

「やっぱ、プロモーションだよ、トシ」
 
ヤスイは主語がないので、
話の内容を予想しなくてはならない。

「なんの?」

「ライブだよ、藻の月のライブを知らない人が多いってこと」

「あ、そうすか」

何でこやつにそんなことを
言われなきゃならないんだ?
と一瞬思いながらも、改まった。

オイラはいま、一周回って
ヤスイのマネージャーなのだ。
言うことを聞くことにしよう。

「わかった、考えます」

と言ったところにマエダが口を出した。。

「ヤスイ、なに偉そうに言ってんだよ」

同じ歳でも早生まれのマエダは、
いつもなんだか威張っている。

「そんなんじゃなくてさ」

意気揚々と酔っ払ったヤスイの目が、
月に向かって泳いで行く。

そんなシーンを眺めながら、
やっぱり自分は幸せだと思った。

すっかりと貫禄がついてしまったが、
かつてのジュウハチとハタチの少年が
いま此処で共に呑み、笑っている。

時間の流れと共に
それぞれの人生話があるにせよ、
こうして顔を見合わせれば
他の何よりも愛しいのかも知れない。

「もっと情報を流すようにするよ」

酔って半分揺れ始めてきた
ヤスイの横顔に言葉を投げると、

「そう、それがマネージャーの仕事だよ」

という天然返答が返ってきた。

「かしこまりました」

とたんに時空が逆戻りして、
35年以上も前のクロコがよみがえる。

めくるめく時間の流れのなかで、
昔からの仲間と一緒に愉しめる事は、
ひとつの奇跡なのかも知れない。

かつて、
ジュウハチの少年が着ていたTシャツは、
とてもカッコよく輝いていた。

「自分でアイロンプリントしたんだ」

少年がそう言った
瞬間から始まった物語は、
今もなお続いているのだ。

そう、それはまるで、
悪戯な時間を重ねるように、
これからも永遠に
つながっていくのかも知れない。

(2021/07/15)

7月24日(土)原宿クロコダイル
藻の月 New Album『Casualismus』カジュアリズムRelease Party

出演
●藻の月●Ready Bug
●Hot Stars(Vo.佐藤ケンジ/Gu.Joe Kids /Gu.聖 /Ba.市川″James″洋二 /Dr.阿部孝宣)

Adv.2500 Door.3000
16:30open / 17:30Start

※緊急事態宣言中につき20時までの時短営業・アルコールの提供はありません。

16:30 OPEN
17:30 START
17:30~18:10 Ready Bug
18:20~19:00 HOT STARS
19:10~20:00藻の月

前売予約/kasuyaimpact@yahoo.co.jp

●藻の月 New Album『Casualismus』カジュアリズム
定価2000円(税別)
※クロコダイルにて先行発売