第13怪『Cold Moon “青ちゃんの命日”』

第13怪『Cold Moon “青ちゃんの命日”』

12月18日は青ちゃんの命日。
と、同時にキースの誕生日でもある。
別に狙ったわけじゃないだろうが、
偲びながら祝う特別な日なのだ。
 
どちらにしても、
とりあえずは呑もうと思い、
新宿のゴールデン街に向かった。

青ちゃんの相方であるMIHOが、
青ちゃんを偲ぶために
一日だけ店を貸し切るというのである。
これは呑まないわけにはいかない。
(と、自分に言い訳をしながら電車に乗った)

師走の日曜はやはり混んでいた。
青ちゃんの命日には一日遅れなのだが、
花園神社から一本抜けた小道を
ゴールデン街に向かって歩き行く。

少し前までは外国人で溢れていたこの一角は、
コロナ禍の影響により
すっかりと日本人向けの
“呑ん兵衛横丁”の景色を取り戻している。

これでいいのだと思う。
インバウンドだか何だか知らないが、
欧米人で無理やりに盛り上がる新宿の夜の街と、
大挙して押し寄せる中国系の大型バスは、
どう考えてみても異様な風景だった。

その先にオリンピックがあり、
あり得ないカジノの解禁があり、
それを当て込んだ観光ホテルや
外国人向けのシェアハウスが、
まるでタケノコのように
建ち並んでいたのも実にヘンであった。

神様が(どんな種類かはわからないが)
それを許さなかったのだろう。
外貨に頼る経済政策は見事に梯子を外され、
僕らは置かれている足元の環境から
物事を見つめ直す機会を得たのである。

“なぁんてね、とにかく今日は呑むのだ!”

狭いカウンターだけの店に入ると、
青ちゃんゆかりの人物たちで
すでにいっぱいであり、
ケンゴさん(スピードのVo.)中心に
盛り上がっていたのである。

カウンターの中で
にわかママに扮したMIHOが仕切っている。
みんなに囲まれて久し振りに楽しそうである。

そのうちリハーサル終わりの
クリとナガタっちが(The Ding-A-Lings)が合流して、
青ちゃんの『フラフラ』が店内に流れ出した。

「これ、クロコ(23日のステージ)で俺が歌うかな」

その『フラフラ』を聴きながら、
クリが冗談とも本気ともつかない事を言う。

クリはコウ(伊藤耕)の同級生で、
『自殺』をはじめとした
かつてのインディーズシーンのパイオニアである。
長い間、音楽から離れていたのだが、
最近『The Ding-A-Lings』のギターで
めでたく不良親父に復帰したのだった。

若い頃、青ちゃんと同居していたこともあり、
公私共に青ちゃんの人間性に詳しい。

「青ちゃんは家で絶対にギターを弾かないからなぁ」

が、クリの口癖なのだ。

かつて、それを聞いたとき、
家に居る時もギターを離さない冨士夫と比べて、

「青ちゃんもたまにはギターを練習したら」

って、余計な一言を言ったのを覚えている。

「お前が練習すればいいじゃん!」

そこには、明らかに怒った青ちゃんがいた。
返しの言葉もとんでもないのだが、
青ちゃんには青ちゃんなりのスタンスがあるのだ。
それも理解せずに絶えず冨士夫と
見比べてしまうのがいけなかった。

ビートルズのフィルム『ゲット・バック』で、
ポールがジョージにあれやこれや指示して
ジョージを怒らすシーンがあったが、
青ちゃんもあんな風だったのである。
テクニックよりも音に向かう
それぞれのスタンスが重要なのかも知れない。

それ以来、青ちゃんには
余計な言葉をかけることはなかった。

だからというわけでもないのだが、
『TEARDROPS』を始めた頃、
青ちゃんが曲を作ってきたのが嬉しかった。

新宿の南口にある喫茶店に呼び出され、
いい歳をしたベテランがはにかみながらも、

「コレ、見てくれるかなぁ」

なんて、
学生のようなレポート用紙の
切れ端を差し出したのだ。

“かなわぬ夢に うつつをぬかしちまったぜ
つまらぬ奴らと 無駄な時間を過ごしちまったぜ
ごめんよ Baby なんだか寒くなってきたぜ
お前のあたたかい部屋に帰りたいのさ“
(『グッ、ナイト』)

なんて詩が書いてある。
すぐにこれはMIHOへのラブレターだと思った。
まぁ、恋は盲目なのである。
それからの青ちゃんは
見違えるようにギターも上達して、
積極的になっていったのだった。

『フラフラ』をスライ&ロビーと共に録音したとき、
いったい青ちゃんは
どんな心持ちだったのだろうか?

いつも飄々(ひょうひょう)としていて、
“柳に風”の青ちゃんが、
あの時はヤケに堂々として見えた。

逆にギリギリまで『谷間のうた』が
できていなかった冨士夫は、
妙にソワソワと落ち着かなかったのを覚えている。

それにしても青ちゃんは、
冨士夫のことが大好きだった。

音楽を始めたのも冨士夫がきっかけなら、
辞めたのも冨士夫との決別が理由である。

いや、冨士夫よりも大切な事が
見つかったからかも知れないな。
MIHOというオアシスを見つけて、
叶わぬ夢に見切りをつけたのかも。

僕はそう思っているのだ。

昨夜は今年最後の満月であった。

“Cold Moon”と言って、
2021年に現れた満月の中で、
地球から最も離れた
遠い位置にあったのだという。

池に映る小さな満月を眺めながら、
青ちゃんの面影を浮かべてみた。

「ひとりで抱え込むんじゃねぇぞ」

バンド活動に行き詰まっていると、
必ず青ちゃんが声をかけてくれたのを思い出す。

北風が吹きすさぶ夜半の月が、
少しだけ暖かく映る気がするのだった。

(2021/12/20)

PS/

12月23日(木)原宿クロコダイル
『とにかく大忘年会!2021』

※はたしてクリは『フラフラ』を歌うのだろうか?

●藻の月

●The Ding-A-Lings

●Hurricane Sally & Reward

●DJ/HOL-ON

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Open18:00 start19:00

※前売り予約/クロコダイル
https://crocodile-live.jp/

MONOTSUKI
kasuyaimpact@yahoo.co.jp

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