山口冨士夫とよもヤバ話/番外編 第24怪『よもすえさん』

山口冨士夫とよもヤバ話/番外編   第24怪『よもすえさん』

むかしむかし、
何かあるとすぐに冨士夫は、

「そんなことすると、“よもすえさん” だろ!」

って言っていた。

物事を否定的に捉える時の
ただの慣用句として使っていたのである。

もちろん、軽いジャブのようなもので、
笑いながら頭をコツンとやるような感じ、

“あきれちゃうね”

と同じ意味合いだと僕は思っていた。

僕は何故かその言葉が気に入って、
ことあるごとに使っていた。

「ちょっと待てよ、それをやったら“よもすえさん” だろ!」
って。

言いながら笑うのだ。
そうすれば周りも和みながら
“ダメなんだな”って思う。

そんな、
とても便利な言葉だと思っていたのだ。

それがある日のこと、
どこかの店だったか
ウチの居間だったか忘れてしまったが、

「トシ、紹介します、彼が “よもすえさん” です」

って、ある人物を紹介されたのだ。

その時、確か、
僕の隣りの隣りくらいに座っていた人物が、
にゅっと、笑顔を突き出し、

「“よも”です、初めまして」

と挨拶をされたのだと思う。

優しそうな純朴そうな感じの人だった。
冨士夫の友達って、
一癖も二癖もある輩がノーマルなのだが、
彼はそんなことはなさそうだったのだ。

しかし、それよりも、
“実在する人物だったのか!?”
ということにまずはびっくりした。

コチラも軽く自己紹介をして、
その後は一体何を話したのだろうか?
不思議なくらいに何も覚えていないのである。

時は経ち、
人生の中で何人もの自分を知り、
楽しんだりあきれたりしながら
なんとか辻褄を合わせて生きてきたら、
最近、頭の中に“よもすえさん”が出てきた。

吉祥寺の南口、井の頭通りをまたぎ、
丸井の裏口から住宅地を抜け、
井の頭公園に続く石段を降りる直前に
緑に覆われた古い建物がある。

“よもすえさん”は
そこで『Rock Bar』をやっているのだ。

場末にあるBarだから
“よもすえさん”の
“Bar Sue”と呼ばれている。

あいにくのコロナ禍になってから
ガラリと世の中は変わってしまい、
人生のベテラン連中は
すっかり出不精になってしまった。

盛んにSNSの世界には登場するのだが、
実際に行動するのは
近所の陽だまりの中が多い。

それと対照的なのは
Z世代と呼ばれる若者たちである。
コロナ禍も気になるが、
勝手に動いてしまう行動力は
なんとも留め難い。

彼らは当たり前のようにデジタルを駆使しながら、
新しいアイテムとしてアナログを好んだりするから、
自然に“Sue Bar”に溜まりに来るのである。

そんな、“Bar Sue”では
古いマニアックなレコードしかかけないから、
新しい息吹を求める若者たちが
古い音源に心を揺らしている。
そんな風景を見た時に、
逆にコチラの心も共鳴するのかも知れない。

さて、考えてみればおかしな時代になってきた。

かつての“カウンター・カルチャー”世代が、
世界中の保守的なソファを陣取って、
思い出のワインを呑んでいる。

はるか先に見える現場では、
若者たちが右往左往して、
見通しのきかない未来に向かって
走っているのである。

無限にあると思っていた時間が
“そうでもない”と気づいたとき、

僕らは、それでも、
好きなことだけをやっていればいいのだろうか?

「おいおい、そうなったら、それこそ“よもすえさん” だろ!」

雲の上から
冨士夫の声が聞こえる気がするのである。

(2022/05/27)

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PS/

“よもすえさん”はほんとうに実在するのだろうか?
と思うときがある。
いつだったか、サミー前田氏に訊いたら、
「僕は知りません」と言っていた。
だから、“これはおかしいぞ”とも思っている。
彼が知らないのだったら俺の妄想なのだろうか?
だけど、冨士夫に紹介されて
しっかりと挨拶をしたシーンを記憶しているのだ。

“よもさん”なんだろうなと思う。
“すえさん”は冨士夫独特のブラックなのだろう。

そんな“よもすえさん”が
“Bar Sue”をやるシーンが頭に浮かんできた。
コチラの方は僕の妄想である。
『藻の月』のRENの奏でる
ギターの音色を聴いていたら、
そんな若い子たちの風景が浮かんだのだ。


Magical Lizzy Band

『藻の月』を聴きながら、
いつか“Bar Sue”物語が
できればいいと想っている。

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『藻の月の次のステージ』

『Tigris Flowers 1st Album 発売
1周年記念 レコ発第二弾コンサート』
6月9日(木)◼️東高円寺ufoclub
●Tigris Flowers
●藻の月
●KANABOON
●Cosmos Report
open/18:30 start/19:00-
前売り/¥2500 当日/¥2800-(D別)
※前売りチケット
ufoclub(03-5306-0240)にて予約受付けます。