第30怪『フールズ/フリーダム』

 第30怪『フールズ/フリーダム』

すっかりと秋めいた気分になると、
何かが終わるような
妙なざわめきが浮かんでくる。

真夏の猛暑の景色では、
汗だくになって蠢いている自分がいた。
まるで目の前しか見えていないかのように
夢中になって身体と心を動かしているのだ。

初めてフールズを見たのは
そんな季節の真っ只中だった。

空はとても蒼くて高かった気がする。
ギラギラと照りつける日差しは
今日を生きる楽しみと勇気に満ちていたし、
どんなくだらないことでも
受け入れる気概に溢れていた。

do it!do it!
自由が 自由が 自由が
最高なのさ!

フールズの音が、メッセージが、
ストレートに自分の″たった今″に
繋がっているのを感じた。

「あっついなぁ…」

声に出して汗を拭う。

そんな蒸し暑い時間が好きだった。
バランスも取れずに駆け出しているような、
理屈抜きの高揚感に溢れていたのである。

コウがマスコさん宛に書いた
手紙を読ませてもらったとき、
そんな自分がフールズの断片しか
掴んでいないことに気がついた。

僕にとってのフールズの存在や音楽は、
心に描いていた風景を変えるほどの
インパクトに満ちていたが、
コウの中での僕自身の姿は、
立ち寄った店でメニューを提示した
マネージャーのひとりだったのかも知れない。

そして余りある時間が過ぎ、
僕らはそれぞれの季節に移っていった。

あの、
いてもたってもいられなかった
溢れるエネルギーは、
いったい何処に行ってしまったのだろう?

笑いと怒りが同時進行するような
フールズのサウンドがとても懐かしいと思う。

そう思いながらフールズの映画を上映する
新宿ロフトに来た。

映画そのものは、
ほとんどが僕の知らないシーンだった。
″そんなことがあったんだぁ″
と思いながら
楽しむことができたのである。

改めて思うのはコウの詩の良さ。
良の個性も他に類をみないものだし、
マーチンの不器用なほどの優しさや、
カズのアーティスティックな
気持ちも伝わってきた。

ずっと続けていくことは
ほんとうに大変なことだ。
川田良のギターを聴くとそう思う。

感じたのは会場に居たフールズの仲間たち。

フールズの映画と共に
自分の半生を心に映し出す輩が
つぶしのきかない歓声をあげていた。

その名もある人も、
名のない人たちも、
フールズの中に自分を投影して
あっという間の季節の流れを
愛おしんだのだろう。

あの頃の僕は、
ほんとうにフールズが好きだった。

締め切り間近の会社を抜け出して
屋根裏のLIVEに駆けつけたし、
ウォークマンに録音したLIVEテープを
通勤時間の電車の中で聴いては、
つまらない日常の風景の中で
フリーダムを描いていたのである。

何であんなに夢中になったのだろう?

もしかすると、
僕の中に居たフールズが
バカみたいに騒いでいたのかも知れない。

だけど、それは
青ちゃんが名付けた『フールズ』。

誰もかれもが″バカ″になれるシーンでの話だった。

自分がそう(フールズ)思えたとき、
果てしなくフリーダムになれたのである。

僕はフールズからのメッセージとして、
それをいちばんに、心に刻んでいる。

だって、
それさえあれば、

ずっと人生は愉しめるのだから。

(2022/10/03)

PS.
高橋慎一監督、サミー前田氏をはじめ
関係者の皆さん、お疲れ様でした。
冨士夫の映画もそうだけど、
人生の後半は、
前半の真逆にあるんだと思う。
力を抜いて心の広さを倍にするような、
そんな精神力を見た気がしました。

良い作品をありがとう。

10/15sat. 新大久保EARTHDOM
藻の月 
LAPIZ TRIO
CINEOLA

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